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京都・鞍馬口の現代美術ギャラリーHRD FINE ART(www.hrdfineart.com)のディレクターによるアート関係諸々ブログ。時にはアートと無関係な話題もあります。気が向いたら更新。
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「意図せぬ因果関係」のこと (3) ポルノとアート

(2)からのつづき

「意図せぬ因果関係」の展示作品で、ルーン文字の形にくり抜かれた厚紙越しに見えるのはポルノ雑誌から切り取られた裸体の男女のイメージだ。ゲリーがインタビューの中で話しているとおり、ネオナチや極右が忌み嫌う同性愛的なシーンや異人種間の性行為のシーンが特に選ばれて使われている。一部には性器が直接的に露出している画像もあるので、18歳未満の未成年は原則観覧禁止とし、写真撮影も同じく原則禁止としている。これまで特に避けてきたというわけでもないのだが、HRDでヌードのイメージを扱った作品を展示するのは多分今回が初めてなのではないかと思う。

ちなみに、これもゲリーのインタビューの中で語られていることだが、使われている写真は概ね1990年代までの古いポルノ雑誌から探し出して切り取られたものなのだという。同性愛的なテーマのポルノ、あるいは肌の色の違うモデルが登場するポルノは、そのあたりまで遡らないとなかなか見つからないので「意図せぬ因果関係」の作品のコンセプトに合致した写真を入手するには古本屋に行かなければならない、というのがゲリーの説明だ。

ここから先は僕の推測にすぎないのだが、そうした古い時代のポルノ写真は、ほんの数十年前の話ではあっても、完全に白人ヘテロ男性中心の視点で撮影・製作されていたものなのだろうと思う。同性愛(特に女性同士)や異人種(特に白人と黒人)のイメージのポルノには、見世物小屋的な、あるいは異常性愛的な、奇異を煽るような視点が存在していたのではないか。そして、時代が進み、LGBTやジェンダー平等、またBLMに代表される人種差別否定の意識の高まりを受けて、そうした一方的な他者性の視点を含む表現は、たとえポルノであっても社会的に許容されなくなってきた。だからそれ以前の古い雑誌を探さなければならないということなのではないか、と。繰り返すがただの推測にすぎないのだが、イメージの歴史や影響力という観点からはこうしたこともとても興味深く見えてくる。

***

日本とヨーロッパでは、ポルノに対する社会規範や法規制は大きく異なるようだ。日本では性器や性行為そのものを見せることは「猥褻物陳列」にあたり、モザイクやぼかしなどで隠すことが必要とされる。欧州ではそういうことは(多分)ないので、市販のポルノ雑誌やポルノ映画などでも性器は隠されることなく堂々と出てくる。その一方で年齢制限やゾーニングなどは欧州のほうが日本よりもはるかに厳しいようで、子供でも誰でも入れるコンビニに煽情的な写真を表紙に使ったポルノ雑誌が堂々と並んでいる情景は欧米人からは異様に映ることもあるようだ。

AVやアニメなどにおける表現の規制がゆるゆるなこともあり、また性行為の場面をストレートに描いた春画なども良く知られている一方、性器の表現だけは厳しく規制されていることは日本国外ではあまり知られていないことから、どうやら欧米の一部では「日本は性的な表現に寛容で自由な国」というイメージが広がってしまっているようなのだ。「hentai」(変態)という日本語が「性的に露骨なマンガやアニメ」を表す英単語としてすでに定着してしまっていることもそのひとつの表れだろう。欧米であれば児童ポルノとしてすぐに摘発されてしまうようなキャラクターが街中のポスターに堂々と描かれていたりするのが今の日本なのだから、これはある意味当然といえば当然なのかもしれない。

今回、ゲリーには事前に「無修正のポルノは日本では猥褻物とみなされて展示が難しくなってしまうので、性器がはっきり見えないように隠したり、少し控えめにしてほしい」ということは伝えていた。しかし、僕の伝え方が十分ではなかったのか、あるいは「日本=性的表現のパラダイス」みたいなステレオタイプのイメージに引っ張られたせいか、展示オープンまで1カ月を切ったタイミングで展示プランとして送られてきた作品画像は女性器や男性器、そしてそれが結合している場面のオンパレードだった。いや、これはマズい。絵画やイラストならある程度逃げようもあるのだが、もともとがポルノ雑誌のポルノ写真なのだから、「猥褻図画」だと指摘されれば否定するのはちょっと難しい(もちろん否定するけどね)。

大慌てでメッセージを送り、日本の社会的規範や法的状況などをちょっと丁寧にレクチャーし、これはOK、これはダメ、と具体的に例を挙げて、急遽すり合わせの作業を行った。自己検閲のようなことはできればやりたくなかったのだけれど、法律があるので仕方がない。なんとかゲリーの理解を得て、再制作・微調整を重ねて、概ね「OK」のラインに押し戻した結果が今ギャラリーに並んでいる作品群なのだ。

とはいえ、ゲリーが日本の状況を完全に理解できているとも思っていない。日本発のポルノビデオやアニメはインターネットではいくらでも「無修正で」見ることができるし、そういうものを見ていれば(そしてメディアを通じてそういうイメージを印象付けられていれば)、日本の映像文化におけるぼかしやモザイク、そして「猥褻物」に対する法規制の論理などおよそ理解不能だろう。

***

今回の展示で慎重になったのには、法的に引っかかるおそれがあるということ以外にも理由がある。それは、2014年に名古屋の愛知県美術館で開催された「これからの写真」というグループ展の鷹野隆大の出品作品をめぐる騒動(というか事件)だ。この件はインターネットでも様々な記事が出ているので詳細は調べていただければと思うのだが、経緯をざっくりと要約すると「男性器が写っている写真作品を見たひとりの来場者が『猥褻物陳列だ』と警察に通報し、警察が検挙をちらつかせて撤去を求め、美術館側は学芸員の逮捕を恐れ、作家が局部を布で隠す妥協策を提案して展示を継続した」といった感じになると思う。

当時も大いに議論になったこの事件だが、日本のアート界に大きな禍根と軛を残した最悪な事件だったと個人的には考えている。公的な権威付けの役割を担う、巨大な組織であるはずの公立美術館(愛知県美術館は愛知県立の美術館だ)が、たった一人の来場者の通報を受けた警察の理不尽な介入に屈し「自主検閲」に堕するという前例をつくってしまったからだ。

警察は「担当学芸員を逮捕する」と脅しをかけたのかもしれない。それが恐怖とパニックを引き起こすというのもわからなくはない。しかしちょっと考えてみてほしい。猥褻図画販売などで店舗や企業が摘発された場合、末端の店員だけでなく店長も経営者も逮捕されるはずだ。美術館なら館長であり学芸課長であり、そしてこの場合は県立の美術館なのだからその最高責任者たる県知事も逮捕されなければおかしい。そして警察がそこまでやることは到底考えられないのだから、抵抗を貫けば貫けたはずなのに(書類送検や裁判などにはなったのかもしれないが)、そして美術館の責任としては貫かなければならなかったはずなのに、それをせず、おろおろと作家に相談し(このへんはあくまで想像ですが)、作家に大きな心理的ストレスをかけ、結果として作品・展示の改変という最悪な結果を招いた。

美術界のヒエラルキーのトップに位置する美術館が、一来場者の恣意的なクレームに、そしてそれを受けた警察の介入にあっさりと負けてしまった。この事実はとてつもなく大きい。警察に通報しさえすれば、政治的・社会的・表現的に気に入らない展示を、たとえ公立美術館であったとしても簡単にシャットダウンすることができる、というスタンダードが成立してしまったからだ。日本全国の美術館やキュレーターが、そして我々のような末端のギャラリーやアーティストが、常に警察の理不尽な介入に怯えながら、表現や発表にブレーキをかけながら過ごさなければならなくなってしまった。それがさらに悪質なかたちに発展したのが2019年のあいちトリエンナーレの「表現の不自由展」をめぐる事件だったと言えるだろう。たまたまどちらも舞台は愛知県美術館だったけれど、愛知に限った話ではなく、日本全体が大きな影響を受け続けているのだ。

下にリンクを貼った館長名義の報告書を読んでも、愛知県美術館が被害者の立場に逃げ、自らの行動が美術表現全体にもたらした因果の重大さをほとんど認識していないようなのが今でも不満でならない。館長が矢面に立つべきだったのだ、逮捕されるべき人がいるとすれば館長だったのだ、と、ある程度本気で思っている。

HRDのような弱小零細のギャラリーが実際に誰かの通報を受けて警察のお世話になるというようなことは、現実には考えにくい。しかし、世の中にはどんな悪意を持った人がいないとも限らない。何かあればあっという間につぶされてしまうだろう。今回の展示はもともと18禁にはせざるを得ないと思っていたけれど、その上やりたくもない自主検閲を行い、写真撮影も禁止としているのは、愛知県美術館の「表現と美術に対する背信行為」があったからなのだ。なんともやりきれない。

とはいえ、こうした愚かな前例に完全に屈したわけでもないということは、実際の展示を見ればおわかりいただけるだろう。

「意図せぬ因果関係」のこと (3) ポルノとアート_a0123573_01232350.jpeg

***

ゲリーがインタビューの中で語っている話が面白い。欧州では、という前提なのだが、「ルーン文字を見た人はまずナチスや極右との関連を想起して強いショックを受ける。しかし、よくよく見ていくとその中にあるのはポルノ写真であることに気付き、ショックがやわらぐ」と。日本では逆に、ルーン文字はちょっとクールな幾何学的記号にしか見えず、その中に見え隠れするかなりストレートなポルノ画像のほうが「ショック」は大きいはずだ。

欧州ではルーン文字がタブーとなっている。日本ではポルノ(性器)がタブーとなっている。異なるタブーがひとつの作品の中で入子構造になり重層的に絡み合っている。期せずして、場所や文化が違えば美術作品の受容も(そして拒絶も)全く異なった様相を見せるという面白い実例になっているのだ。

こうした異文化の衝突や相対性は、ゲリー・デ・スメットがこの作品で「意図した」ものでは必ずしもない。しかし、日本でこの作品群を展示することによって新たな位相が立ち上がり、この作品群の地平がさらに拡張した。そのことだけでも、今回の展示には大きな意義があったのではないかと個人的には考えている。

***

ゲリー・デ・スメット個展「意図せぬ因果関係」の会期は2021年11月27日まで。アポイントも可。ぜひお見逃しなく。


# by hrd-aki | 2021-11-17 01:43 | ギャラリー

「意図せぬ因果関係」のこと (2) ルーン文字考

(1)からのつづき

「意図せぬ因果関係」の展示作品については、ギャラリーのウェブサイトやプレスリリースの展覧会案内でも少し説明しているし、YouTubeで公開しているzoomインタビュー動画(ギャラリーでは半分ほどの長さのダイジェスト版を上映中)でも詳しく語られているので、ぜひそちらをご覧いただきたい。で、ここではその動画でも触れられていない、ルーン文字にまつわるあれこれについて書いてみようと思う。

***

ルーン文字。ゲルマン民族が用いた古代文字で、ヨーロッパ、特に北方を中心に広い範囲で使われていた。というぐらいの浅い知識なら僕も持っていた。子供の頃によく遊んでいた「ゲームブック」の舞台となる剣と魔法のファンタジー世界(ダンジョンズ&ドラゴンズ、つまり「地下牢と龍」の世界)には、しばしばルーン文字が暗号や呪術的な意味合いで登場していたので(例えば羊皮紙の地図に書かれたルーン文字を解読しなければ冒険の旅を先に進めることができない、とか)、「ルーン文字」という言葉自体には馴染みはあった。今でもコンピューターゲームのRPGなどではギミックとしてルーン文字(的なもの)が使われているのだろうし(ゲームブックはRPGの原型みたいなものだ)、有名な『ハリー・ポッター』のホグワーツ魔法魔術学校の教程にもルーン文字の授業があるらしい。

が、今回この展示を開催するにあたってインターネットでいろいろと調べてみて(便利な時代!)、初めて知ったことも実にたくさんあった。ルーン文字には地域や時代によって多様なバリエーションがある、ということもそのひとつだ。今回ゲリーが作品に使っているのはノルディック(北欧)系のルーン文字とされているもので、24文字でひとつのアルファベットとなっている。

これはゲリーが使用した24文字のルーン・アルファベットと現代のアルファベットの対応表。これはギャラリー内にも掲示している。

「意図せぬ因果関係」のこと (2) ルーン文字考_a0123573_23481408.jpg

ただし、ルーン文字の起源や変遷についての研究はいまだに発展途上、まさに文字通り「諸説ある」という状態で、どうやら後世に後付けで解釈が付け加えられたり、改竄や捏造に近いようなことも行われてきたようなのだ。

そんな「捏造」の例のひとつと言えるのが、今回のゲリーの作品でも使われているこの文字。

「意図せぬ因果関係」のこと (2) ルーン文字考_a0123573_23392103.jpeg

実はこの文字、厳密にはルーン文字ではない。「Wolfsangel」(ヴォルフスアンゲル?)と呼ばれる記号で、もともとはオオカミを捕獲するための罠をかたどった記号であり、紋章などにも使われていた(今でも欧州各地で地域の紋章の一部として使われているケースがあるらしい)。これを悪名高いナチスの「第2SS装甲師団」がシンボルマークとして採用した。もしかするとナチスもこれをルーン文字だと勘違いしていたのかもしれない。ここでは敢えて実物を挙げることはしないが、第2SS装甲師団のエンブレムは検索すればすぐに確認することができる。

いずれにしても、ルーン文字よりも歴史が新しく、厳密な意味では文字ですらないこの「ヴォルフスアンゲル」が、どこかのタイミングでルーン文字のアルファベットに紛れ込み、ナチスによって利用され、そして今日に至っているということのようなのだ。

実は僕が調べて指摘するまで、この事実をゲリー自身も知らなかったようで、面白がってくれた。ゲリーが制作上の重要なテーマとしてインタビューの中でも語っている「ミスリード(欺き)」がここでも期せずして生まれているとも言えるわけで、とても興味深い発見となった。

ヴォルフスアンゲルに関するWikipediaのページはこちら(英語版):

現代のドイツでは、ナチスによる犯罪の象徴として「スワスティカ」すなわち鉤十字(ハーケンクロイツ)の使用が禁止されているというのは広く知られている事実だが、それと並んで、ナチスがシンボルとして利用した一部のルーン文字も使用禁止になっている。これも今回初めて知ったことだ。「Hate Symbol Database(ヘイト・シンボル・データベース)」という反ヘイト団体が運営しているウェブサイトにも、ナチスや極右と関連付けられるルーン文字が「ヘイトのシンボル」としていくつか紹介されている。「ヴォルフスアンゲル」も当然そのひとつとして挙げられているのだが、このサイトでもルーン文字のひとつとして紹介されているのが興味深い。

***

欧州各地にはルーン文字が刻まれた古代の石碑のようなものが数多く残されている。ルーン文字のほぼすべてが直線の組み合わせのみで構成されているのは、木の板や岩石の表面に刻み込んで使用した文字であり、直線のほうが彫り込みが簡単だからという理由なのだが、もともとの起源としては木の枝を組み合わせて地面に置いた記号から派生した、という説もあるようだ。

いずれにしてもその直線的なラインはシャープで、ある種モダンな雰囲気もある。ナチスが軍事国家のシンボルとしてルーン文字を使用したのも、純粋ヨーロッパの民族的正統性という思想的な意味合いだけではなく、意匠としてのシャープさ、かっこよさも理由のひとつだったのかもしれない。

そして、ゲリーの作品ではその直線的なラインがポルノ写真の裸体の複雑な曲線と組み合わされることで、あたかも人間の生身の肉体が鋭利な刃物で切り刻まれているかのような印象を受ける。戦争の暴力性を想起させる効果もあるように思えるのだ。これはゲリー本人に聞いたわけではなく、偶然に過ぎないのかもしれない。その意味ではこれも「意図せぬ因果関係」だと言えるだろう。


(3)につづく

# by hrd-aki | 2021-11-17 00:09 | ギャラリー

「意図せぬ因果関係」のこと (1) 開催までの経緯

HRDファインアートで現在開催中(11月27日まで)のゲリー・デ・スメット個展「意図せぬ因果関係」について、いくつかのことを備忘的に書き留めておこうと思う。長くなるので3回に分けて投稿する。

***

ゲリー・デ・スメットとの出会いは8年前の2013年秋に遡る。場所はモスクワ。

第5回モスクワ・ビエンナーレの関連展(スペシャルプロジェクト)として開催されたグループ展「Roots, Growth - Us」に、安喜万佐子や林ケイタ、森川穣ら京都を拠点とするアーティストのグループ「IPP」(Inverse Perspective Project)が参加・出品することとなり、(細かい経緯は端折るけれど)そのサポート役、コーディネーターとして現地に同行した。そして、同じグループ展の出品作家の中にゲリーもいて、挨拶をかわした、というのが最初だった。実は実際に顔を合わせたのはその時が唯一で、それ以降はSNSやメールなどでやりとりしながら今に至っている。

この「Roots, Growth - Us」展は、友人のロシア人キュレーター、アンドレイ・マルティノフと日本人アーティストの小川真由子さんが共同キュレーターを務め、日本やロシア、スペイン、ベルギーなど様々な国の作家が参加する国際色豊かな展覧会だった。会場はモスクワの国立現代史博物館。このときのゲリーの作品は、コンフェッティ(小さな紙吹雪)を使って展示室の床面に旧ソ連の「鎌と槌」の巨大なエンブレムを描き出すという作品で、ロシアで、モスクワでこれをやりますか、と感心した。

「Roots, Growth - Us」展のゲリーの作品(ゲリー・デ・スメットのウェブサイトより)。

「意図せぬ因果関係」のこと (1) 開催までの経緯_a0123573_22534238.jpg

その後、日本でもゲリーの展覧会をやろうかという話になり、(細かい経緯は端折るが)2020年春にHRDファインアートで個展を開催する計画を立てた。京都国際写真祭KYOTOGRAPHIEのサテライトイベントであるKG+への参加を想定して、ルーン文字とポルノ写真を組み合わせた新作を展示することになった。フランドル(ベルギーのオランダ語圏地域)の地方政府から渡航費などの助成金も得られることになった。

そして、2020年。新型コロナウイルス感染症のパンデミックがあっという間に全世界に広がった。日本でもダイヤモンドプリンセス号の失態や国境封鎖の遅れで感染が広まり、ステイホームとソーシャルディスタンスが叫ばれ、アベノマスクなどという愚策が国民に襲いかかり、国内どころか国内でも移動に制限がかかる状況になっていった。ゲリーの展覧会の前には、韓国ソウルのSpace O’NewWallとの共同企画による韓国人作家キム・ユンソプの個展も3月〜4月に予定していたのだが、直前に延期を決断することになった。そして、ゲリーの個展も、その当時はヨーロッパで感染が爆発的に広がり多くの死者が出ていたこともあり、延期を余儀なくされた。

これは当初のスケジュールで作成していたポストカード。一切使わずじまいになってしまった。

「意図せぬ因果関係」のこと (1) 開催までの経緯_a0123573_23000245.jpg

ちなみに、キム・ユンソプの個展はまだ開催の見通しは立っていない。日韓の人的往来が可能になってから、と考えているので、来年(2022年)の開催もちょっと難しいのではないかと見ている。

閑話休題。会期延期となったKYOTOGRAPHIEおよびKG+の9月・10月開催が発表されたこともあり、ゲリーの個展も当初はそこに合わせて、と考えていたのだが、これは完全に見通しが甘かった。東京オリンピックが延期されても、ウイルスが弱まると言われていた夏が来ても、コロナは収束の気配すらなく、海外からの渡航など夢のまた夢。仕方なく再延期。この頃にはこのコロナ禍がそう簡単には収まりそうにないことははっきりしてきていたので、では改めていつやるかというスケジュールは未定・白紙のままだった。

助成金については、フランドル政府と何度かやりとりしたのだけれど、そのフレキシブルな対応には感心させられた。「コロナで延期してるけど、展覧会は必ず開催します」という内容のレターを送り、それで助成金の執行を先送りしてもらうことができた。過去に例を見ないような事態にあって、過去に例を見ないような対応がきちんとできている。日本の文化芸術行政を基準にして比較するのは全くもって失礼なのかもしれないと思うほど、レベルが違う。個人の感想ですが。とはいえ、際限なく先延ばしし続けるわけにもいかない。

この間、ギャラリーでの展覧会は2020年秋から国内の作家を中心としたラインナップで再開していたのだが、2021年もKYOTOGRAPHIEとKG+が9月・10月開催となったので、ゲリーの個展もそこに合わせて開催することを考えた。もちろん作家には来日してもらいたい。

しかし、ヨーロッパでワクチンの接種が進み、様々な規制がだんだんと緩和されていく一方(ゲリーからは「今日も近所のクラブでパーティーが開催されたよ」などとベルギーの制限緩和を伝えるメッセージが入ってくる)、日本はPCR検査がいつまでたっても普及しないどころか狂気に近い陰謀論まで横行していた。東京オリンピック開催強行で感染の第5波が発生、ギャラリーのある京都の隣県(そして僕の自宅のある)大阪は人口あたりの死者でダントツの全国最悪を記録し、外国人の渡航は禁止されたまま(日本人帰国者はOKなのに)、という地獄のような状況が続いた。

いつまでもコロナの感染拡大の波に付き合って開催延期を繰り返していても埒が明かないので、妥協策として、作品だけ京都に輸送して展覧会を開催しようということになった。フランドル政府も、渡航費助成については当面のところ保留という扱いにしてくれることになった。そして、ようやく、1年半越しに「意図せぬ因果関係」の展示が実現することになった。

***

コロナが収束し、日本とヨーロッパの間で自由な渡航が再開されたら、今度はゲリー・デ・スメットが制作の中心に据えている絵画の展覧会を改めて開催したいと考えている。それがいつになるのか、今のところ見通しは全く立たないけれど、ここでは「乞うご期待」とだけ言っておくことにしよう。


(2)につづく

# by hrd-aki | 2021-11-16 23:28 | ギャラリー

関連アーティスト情報【2021.11.6】

●トーマス・ノイマンがドイツでグループ展に参加
2019年にHRDファインアートで開催したグループ展「Boundaries/おわりとはじまり 〜 日独写真作家展」に参加したドイツ人アーティスト、トーマス・ノイマンがドイツ南部のビーティッヒハイム=ビッシンゲンでグループ展に参加しています。
会場:ビーティッヒハイム=ビッシンゲン市立美術館(ビーティッヒハイム=ビッシンゲン)
会期:2021年10月23日~2020年2月6日

●ゲリー・デ・スメットがベルギーでグループ展に参加
現在HRDファインアートにて個展を開催中のゲリー・デ・スメットがベルギーのベールネムでグループ展に参加しています。
会場:PAK(ベールネム)
会期:2021年10月24日~12月12日

●安喜万佐子が京都にてグループ展に参加
安喜万佐子が京都・仁和寺を会場とするグループ展に参加しています。
会場:仁和寺(京都)
会期:2021年10月30日~11月7日

●木村了子が埼玉と金沢で美術館展に参加
木村了子が埼玉県立美術館と金沢21世紀美術館で開催されている2つのグループ展に参加しています。
会場:埼玉県立近代美術館(さいたま)
会期:2021年9月23日~11月3日(※会期終了しています)
会場:金沢21世紀美術館(金沢)
会期:2021年10月16日~2022年3月13日

# by hrd-aki | 2021-11-06 12:27 | アーティスト

ゲリー・デ・スメット関連動画公開

現在HRDファインアートのギャラリーで開催中のゲリー・デ・スメットの個展「意図せぬ因果関係」。ギャラリー内では、デ・スメット本人が撮影した短いスタジオ紹介動画と、zoomを使って行ったリモートインタビューをまとめた動画と、2本の動画を流していますが、それと同じものをYouTubeのHRDファインアートのチャンネルでも公開しています。

スタジオ紹介では、ベルギーのヘント(ゲント)にあるデ・スメットのスタジオの様子と、そこに飾られている作品の一部を見ることができます。日本の小さな美大のスタジオならまるまる入ってしまうのではないかと思えるほど巨大なスタジオで、もとは郵便局だったとのこと。デ・スメットはこの建物を自宅兼スタジオとして利用しています。

ゲリー・デ・スメット関連動画公開_a0123573_12031074.png

インタビュー動画のほうは、今回の個展の展示作品であるルーン文字とポルノ写真を組み合わせた「意図せぬ因果関係」シリーズについての話を中心に、歴史や人類学などデ・スメットの制作の根底にあるもの、またベルギー、特にデ・スメットが拠点としているフランドル地方(ベルギーのオランダ語圏)における現代美術の状況についても話してもらっています。

ギャラリーで上映している動画は主に前半部分のみをまとめたダイジェスト版(約16分)ですが、YouTubeではフルバージョン(約30分)を公開しています。

ゲリー・デ・スメット関連動画公開_a0123573_12030137.png

この2本の動画を見ればデ・スメットの作品世界をより深く理解することができると思います。ぜひ展覧会とあわせてご覧ください。



# by hrd-aki | 2021-10-23 12:13 | おしらせ