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京都・鞍馬口の現代美術ギャラリーHRD FINE ART(www.hrdfineart.com)のディレクターによるアート関係諸々ブログ。時にはアートと無関係な話題もあります。気が向いたら更新。
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『ルネッサンスの光と闇』(3)

少し間が空いてしまったけれど、『ルネッサンスの光と闇』(高階秀爾著)という本から現代アートについて考えてみるシリーズの第3回目。

ちなみに前2回の記事はこちら。
『ルネッサンスの光と闇』
http://hrdfineart.exblog.jp/11549868/
『ルネッサンスの光と闇』(2)
http://hrdfineart.exblog.jp/11568023/

『ルネッサンスの光と闇』の「第一章 虚飾の焼却」では、フィレンツェで修道僧ジロラモ・サヴォナローラが行ったいわゆる「虚飾の焼却」あるいは「虚栄の焼却」を、特に美術との関わりを中心に、美術史家ジョルジョ・ヴァザーリの『芸術家列伝』の記述に基づいて論じている。ルネッサンスのいわば「闇」に相当する部分、とざっくりと言えなくもない。サヴォナローラは、キリスト教的終末論に支配された世紀末(15世紀末)の雰囲気の中、絵画から文学から音楽にいたるまで華美で贅沢な文化風潮すべてを退廃的として攻撃し、熱狂的な支持を集めてフィレンツェの政治的実権を握った。「虚飾の焼却」はその過程で二度にわたって行われ、サヴォナローラの煽動によって多くの画家たちが自らの作品をすすんで火に投じた、とされている。ヴァザーリの記述を、又引きになるが引用すると、

***

「それは芸術、とくに絵画にとって、取返しのつかない損失であった。というのは、バッチオ(バルトロメオ)は、自分の描いた裸体習作をすべてこの火刑のなかに投げこみ、続いてロレンツォ・ディ・クレディ、および他の多くの画家たちがこれに倣ったからである……」

***

さらに、「虚栄の焼却」がこの時代のフィレンツェの芸術にもたらした影響については、次のように総括されている。

***

二度にわたる「虚飾の焼却」の収支決算書は、直接の影響に関するかぎり、かなり明瞭である。それは「バルトロメオやロレンツォ・ディ・クレディ、および他の多くの画家たち」の優れた画稿や作品を焼失せしめ、ヴィーナスの画家ボッティチェルリを沈黙させた。しかし他方では、フラ・バルトロメオという優れた宗教画家を生み出し、ボッティチェルリに晩年の傑作を描かせた。

さらに、社会的に最も大きい影響は、「虚飾」ではない宗教絵画作品の隆盛をもたらしたことであろう。現在の眼から見れば、いささか甘過ぎるようなペルジーノのあの遠く天を憧れる上向きの眼差しは、直接神と結びつこうとする宗教改革運動のシンボルのようになった。逆に言えば、ペルジーノ風の甘美な宗教画を描いているかぎり、画家は安全であった。このような特殊な事情を考慮しなければ、1490年代におけるペルジーノの人気の急速な高まりは、理解することができないであろう。

***

ここで名前の挙がっているボッティチェルリは、「ヴィーナスの誕生」や「春」といった異教的かつ官能的なテーマと描写の作品で知られているが、晩年、サヴォナローラ登場後は禁欲的な宗教画ばかりを描くようになっている。もちろんボッティチェルリ自身が年齢を重ねたことも要素のひとつとして考えに入れなければならないだろうが、社会環境が作家と作品に与える影響について示唆に富んだエピソードと言えるだろう。

現代美術との関わりでもうひとつ示唆的なのは、ペルジーノについて触れている段で、「人気」というキーワードがスッと無造作に提出されていることだろう。美術史上の動向や変革について触れるとき、「傑作」とか「天才」とかいう言い方をすることはあっても、「人気」という言葉には滅多にお目にかからない。ゴッホ礼賛に象徴されるように、人気がなくても(全く売れなくても)すばらしい天才の持ち主、というのがひとつの理想の芸術家像として定着している感が現にある。逆に、「人気作家」という呼称はどちらかというと一段下の、大衆受けする「やわ」な作品づくりしかできないアーティストに向けられる、軽い蔑称となっていると言っても言いすぎではないと思う。

では、現代アートにおいて「人気」に代わる好ましい表現は? それはおそらく「高い評価を得ている」とか「各方面から注目されている」といったあたりになるだろう。ここに「海外でも」とか「国際的に」とかいう形容がつくとさらにハクがつく。あ、ただし間違っても「海外でも人気が高い」などと言ってはいけない、すごく薄っぺらくなるから。

引用した部分の最後の一文で、「1490年代」を「2000年代」に、「人気」を「評価」に置き換え、そしてペルジーノの名前を例えば草間彌生、千住博、村上隆、ロッカクアヤコあたりに置き換えてみると、そこにどのような「特殊な事情」を引きつけてくるべきなのだろうか? 600年後ではなく今、レトロスペクティブな視点を持ち得ない同時代においてはそのような問いはかなり厳しいものになるけれど、しかしそれに答えようと四方八方に思考を巡らすこと自体はかなり刺激的で面白い。

現代的な(マスメディア的な)意味での「人気」と、近代以前の注文主対芸術家という関係性においての「人気」とは、もちろん全くの別物として考えなければならない。しかしながら、サヴォナローラの原理主義的・狂信的な主張が熱狂的な世論を生み出したように、メディアがつくり出す恣意的な「高評価」「国際的に注目」のイメージも強力な世論を生み出すことができる。そこには必ず何らかの「特殊な事情」があるはずなのであり、それとは裏腹に自らの「優れた作品」をすすんで火にくべなければ生きていけない「多くの画家たち」も、15世紀末のフィレンツェ同様に21世紀の日本にも実際存在しているのだということにも思い至るべきであろう。

こんなふうに考えてくると、改めてアートというのは厄介で扱いにくい、そして決してその正体を明かさない怪物のようなものなのだと思わずにはいられない。

ちなみに今さらだが、この本はすでに絶版になっているようで、Amazonでも古本でしか手に入らないらしい。良書は悪書を駆逐する、というわけにはいかないようだ、残念ながら。
http://www.amazon.co.jp/ルネッサンスの光と闇―芸術と精神風土-中公文庫-高階-秀爾/dp/4122014166/
by hrd-aki | 2011-02-22 01:04 | 雑感
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