7月からは韓国人ペインター、チェ・ユンジョン(Choi Yoonjeong)の作品「Remembering, Being Remembered...」をウィンドウギャラリーで展示中。この作品は5月のアートフェア京都でも展示していたものだ。
チェ・ユンジョンは1983年生まれ、20代のまだ若い作家で、アクリル絵具を用いた非現実的かつ幻想的な室内の空間を描き出すスタイルで制作を続けている。以前は色彩も空間構成もよりダイナミックで自由奔放な作品を多く描いていたが、最近の制作ではより静かで緻密な表現に移行していて、奇妙さや非現実感が一見してもわからないようなスタイルになっている。
シュールレアリスム的、という形容が当てはまるのは間違いなくて、均質な筆触やパステル調の色感など、ルネ・マグリットを想起させる部分も多い。毛糸に縛られたインコ(の剥製)や空っぽの鳥籠など、現代社会や人間関係の不安感を暗示するような象徴的モチーフも登場する。
とはいうものの、全体としての画面にはあっけらかんとした明るさがあり、深刻なメッセージを伝えることに重点が置かれているわけでもないことがうかがわれる。韓国の若い世代の作家の多くに見られるような、韓国社会の伝統的な事物・事象のモチーフ(例えば食べ物、伝統芸能の衣装、工芸品などなど)を登場させて現代的なイメージと対比させるような、ストレートな(そして安易な、あるいは表面的な)問題提起の身振りもここにはない。
彼女の作品を特徴づけているものは、シュールレアリスト的な表現手法や絵画言語ではなく、あたかも箱庭や舞台装置の模型のようにその中で様々なイメージが移動し、入れ替えられ、新たに組み合わされていく、そのいわば関係性の「一人遊び」の現代的な感覚にこそあるように思われる。
「Remembering, Being Remembered...」には2つの両開き窓が描かれている。ウィンドウギャラリーの出窓の中で「窓イン窓」になっているところもこの展示のひとつのポイントとして見ていただければと思う。
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アーティスト、チェ・ユンジョンについて(HRD FINE ARTウェブサイト)
http://www.hrdfineart.com/art-choi_yj.html