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京都・鞍馬口の現代美術ギャラリーHRD FINE ART(www.hrdfineart.com)のディレクターによるアート関係諸々ブログ。時にはアートと無関係な話題もあります。気が向いたら更新。
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『日本人にとって美しさとは何か』とは何か

子供とチャンバラ遊びをするためにダンボールと新聞紙で刀をつくっていたときに、押入れの中から2015年12月の京都新聞が出てきた。約2年前の新聞にはどんなことが載ってるのかな、とパラパラと見ていたら、書評欄みたいなところに高階秀爾の記事があったので、切り抜いて、あとで読んでみた。

そしてがっかりした。

『日本人にとって美しさとは何か』とは何か_a0123573_04322558.jpg

高階秀爾の『日本人にとって美しさとは何か』という著書を紹介するための記事で、その本を僕は読んでいない。だからその本の内容についてはこの記事から判断するしかなく、この記事がその本に関するすべてを言い尽くしているわけではないだろうということも理解しているのだけれど、買って読んでみようという気はゼロになってしまったのでそのことを検証する機会もたぶんこれから先訪れることはないだろうという気がする。

「日本人の美意識は細やかで柔軟。西洋とは違う、独特のものです」という高階氏の言葉が記事の冒頭で紹介されている。これがこの『日本人にとっては美しさとは何か』という本の基調をなす考え方なのだとすると、日本人には四季を愛でる繊細な感性があって、世界の中でも独自の美を生み出してきた、という使い古されたクリシェに乗っかっただけの、まともに取り上げるに値しない粗雑な論考だということに、残念ながらなってしまうだろう。

「季節のうつろいを楽しむ感覚、余白や不完全なものを美しいと思う心。こうした美意識は〈中略〉日本文化全体の根底を流れている」という言葉が記事の中に出てくる。これは高階氏の言葉ではないが、こうした「美意識」が、しかし、日本文化全体の根底を流れているという仮説にはいくらでも反証を挙げることが可能だし(例えば「洛中洛外図」や平安の「源氏物語絵巻」あたりは「余白を美しいと思う心」の発露などかけらも見えない)、それが日本以外の国や国民には全く存在しないということも単純にありえない(不完全なものを美しいと思う心は、古くはレンブラント、新しくはサイ・トゥオンブリーあたりを見れば西欧文化にも存在していることはすぐにわかる)。

四季があるのも日本だけではないし、その四季のうつろいに美を見出して芸術の中で表現してきたのももちろん世界の中で日本人だけではない。日本では古くから中国の漢詩が基礎教養として位置づけられてきたわけだが、漢詩にももちろん季節感を表現したものは多くあり、それが和歌や俳句の世界にも引き継がれていることは疑いの余地がない。西洋美術を見ても、ブリューゲルの冬景色などは繊細で美しいし、アルチンボルドもミュシャも四季をテーマにした作品を残している。日本美術の表現と違うからといって、ヨーロッパの画家たちが四季を愛でる心を持っていなかったなどと断じることはできない。逆に浮世絵版画の大首絵などには季節感を感じさせるものは(当たり前だが)ほとんどない。

記事の中で特に大きく紹介されているのが、江戸末期から明治初期に西洋絵画導入の先駆けとなった司馬江漢や高橋由一らの「和製油画」(高階氏の造語らしい)だ。西洋の油彩画の模倣をしようとしたのだが、そこに日本的なものが巧まず無意識のうちに入り込んでしまって、日本独自の油彩表現が生まれた、という分析なのだが、これにしても日本以外のアジア諸国における油彩の導入との比較なしに「日本は独特」と決めつけてしまうのは無理があるだろう。

確かに、東アジアにおいては日本がいち早く西欧文化を取り入れた近代化に成功し、その後軍事的にも経済的にもアジアに進出し植民地化も進めたので、中国や朝鮮半島における西洋文化・西洋美術の受容の一部は日本というフィルターを通したものであったという側面は否定できないし、そのせいで日本と他のアジア諸国との間にフラットな比較が成り立ちにくいというのも事実ではある。しかし、そうであればこそ、日本が文化的に独特でユニークである、したがって西洋絵画の受容のあり方も独特でユニークであった、という主張については、大きな留保マークを付けておかなければならないのではないだろうか。歴史政治的な要因と文化的な要因を混同してはならない。

少なくともこの記事から読み取る限り、この本には「アジアの一部としての日本」という視点が完全に欠落している。西洋対日本という軸だけが存在していて、その他の国々や人々はすべて捨象されている。そしてその「日本」にはおそらく沖縄や奄美、そしてアイヌも含まれてはいない。ここ最近この社会に蔓延している「日本すごい」の自国礼賛、自己満足の軽薄さだけが色濃く漂っている。

翻って考えてみれば、モネの絵画を見て「フランス人独自の美意識」と呼んだり、ミケランジェロの彫刻を前にして「完璧さを追求するイタリア人ならでは感性」などと分析することなどありえないではないか(イタリア人が完璧主義者だって?!)。なぜ日本文化を取り上げるときに限って「日本的」とか「日本独自の」とかいう国民国家的な形容をつけなければ気が済まないのだろうか。しかも同じ日本人の表現の中に細かい差異を読み取ることができるはずの我々日本人自身が。

文化や芸術の面白さは、人が生み出した(そして生み出している)ものだということだろう。生まれ育った環境や自然や生活文化や時代背景の影響はもちろん否定できないが、もしもそれらが全てを規定するのだとしたら、同じ時代の同じ場所からは全く同じ表現しか生まれないということになってしまう。

日本の風土や自然に根ざした「日本的」な美意識や感性が存在することは否定しない。美術史家がやらなければならないのは、その存在をアプリオリな前提として「西洋とは違う、独特のものです」などとシンプルな二項対立を設定して自国礼賛を煽り立てることではなく、なぜそのような美意識や感性が生まれたのかを深く掘り下げ、比較分析し、微細な現象の在り様を解き明かしていくことなのではないか。と、午前4時過ぎの粗雑な思考で考えている。

by hrd-aki | 2018-01-30 04:59 | 雑感
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