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京都・鞍馬口の現代美術ギャラリーHRD FINE ART(www.hrdfineart.com)のディレクターによるアート関係諸々ブログ。時にはアートと無関係な話題もあります。気が向いたら更新。
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地方文化通信:犬島アートプロジェクト (2)

(1)からのつづき

犬島アートプロジェクトは、島の景観を日本の近代化の遺産として保全しながら、島全体を現代アートの美術館として再開発していくというプロジェクトである。2008年4月から公開が始まった第1期のプロジェクト「精錬所」は、アーティスト・柳幸典と建築家・三分一博志のコラボレーションによる、建築とインスタレーション作品が一体化したプロジェクトだ。

柳幸典は1959年福岡県の生まれ。1993年にヴェネツィア・ビエンナーレのアペルト部門を受賞し、生きたアリが、砂でつくられた万国旗の中を移動する仕掛けで物議を醸したインスタレーション作品「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」などで国際的にも知られている。国家や社会制度、経済システムなどを正面から取り上げ、それらがはらむ問題を鋭く追究してきた。一方、建築を担当する三分一博志は1968年生まれで、まだ若手と呼ぶべき世代の建築家だ。環境との共生を志向した作品で近年注目を集め、犬島のプロジェクトにも抜擢された。

「精錬所」における三分一の建築は、工場遺構を積極的に利用し、また周囲の環境と調和することを中心的なテーマとしている。もともとあった精錬所の巨大な煙突を建物の空調に活用し、また銅精錬プロセスの副産物であった「カラミ煉瓦」(*)や、島で産出する犬島みかげなど、犬島に由来する材料を象徴的に用いることで、歴史や環境を巧みに取り込んでいる。犬島の環境に合わせた植物による植栽や、植物の力を借りた水質浄化システムなど、先進的な環境システムの構築は、岡山大学の環境理工学部の全面的な協力により実現されたものだ。

(*…カラミとは、銅を精錬する際に副産物として発生する銅スラグ(鉱滓)の俗称であり、カラミ煉瓦はそれを固めてつくった建築材料である。犬島では銅の精錬のプロセスで大量に産生するカラミを使った煉瓦が工場などの建物材料として数多く使われていた。)

三分一の設計による「精錬所」の中に組み込まれる柳幸典の作品は、「ヒーロー乾電池」と名付けられている。犬島の歴史的遺産と、それが象徴する近代日本の様々な問題を、5つの部屋で提示した、サイト・スペシフィックなインスタレーション作品だ。日本の近代化の矛盾に対して警鐘を鳴らし、社会に衝撃を与えた小説家・三島由紀夫が生前暮らしていた東京都渋谷区の家の解体によって出た廃材を作品に組み込むなど、今後の日本や日本人のあり方について観る者ひとりひとりが思いを巡らすための場がつくり上げられている。



このように大規模で、かつ実験的・先進的でもあるプロジェクトが、東京や横浜、大阪といった、安定した集客が見込め、またアートに対する受容の土壌が整った場所ではなく、瀬戸内海の犬島という非常に限定的で特殊な場所で実現されているということの意味、またそれを運営する福武總一郎(直島福武美術館財団理事長、ベネッセコーポレーション会長兼CEO)の狙いは、どういったところにあるのだろうか。

ベネッセは1955年に福武書店として岡山市で創業された。現在ベネッセの会長を務め、直島福武美術館財団の理事長でもある福武總一郎の父・福武哲彦が創業者だ。教材制作などからスタートし、小学生向けの通信添削講座「進研ゼミ」によって全国的に知名度を高めていった。1995年にベネッセコーポレーションに社名を変更してからは、その社名の意味する通り(イタリア語で「bene」は「よい」、「esse」は「生きる」を意味する)、「よく生きる」という価値観を社会に浸透させることを目指し、教育、語学、福祉などの事業を幅広く推進している。今では日本を代表する企業体のひとつと言えるだろう。

一方で、現在も本社を岡山県岡山市に置いていることからもわかるように、ベネッセは創業の地である岡山に深く根差し、地域振興にも多くの力を注いできた。「福武教育文化振興財団」は岡山の教育・文化振興を支援することを目的とした財団であり、多くの助成活動を行っている。また、ベネッセが直島福武美術館財団とともに運営し、国際的にも高い評価を受けている「ベネッセアートサイト直島」の活動は、所在地こそ岡山県ではなく対岸の四国・香川県に属する島だが、瀬戸内海地域そのものの注目度を高めることに大きく貢献している。

(3)につづく
by hrd-aki | 2009-09-16 01:27 | 雑感
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