京都・鞍馬口の現代美術ギャラリーHRD FINE ART(www.hrdfineart.com)のディレクターによるアート関係諸々ブログ。時にはアートと無関係な話題もあります。気が向いたら更新。
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福岡アジア美術トリエンナーレ

熊本での打合せを終えてソウルに移動する前の短い時間を利用して、福岡アジア美術館で開催中の「第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009」を見た。
JR博多駅から福岡空港に行き、荷物をコインロッカーに預けてまた市内に戻り、美術館に行って、また空港に戻って、という非効率なことをやっていたら予想外に時間を食ってしまって、見る時間が少なくなってしまったのが心残り。

アジアの近現代美術を専門とする世界で唯一の美術館という触れ込みの福岡アジア美術館で、開館以来継続して開催し続けているアートのトリエンナーレで、普段あまり接することのないアジア各国の現代美術の一端に触れることのできる貴重な展覧会だ。

ツァイ・グォチャン(蔡國強)の大作や、ピカピカに磨いた金属の食器と古い陶器の器が並んでぐるぐる回るインドのスボード・グプタのインスタレーション、人体の各部や臓器を影絵劇のように図案化したカタチを組み合わせて新たなイメージをつくり出すウー・ジエンアン(鄔建安)の作品、などが面白かった。
ビデオ作品もたくさんあったけれど、工事現場(ビル解体現場?)の音の繰り返しを組み合わせてリフのようにリズムを刻むアン・ジョンジュ(韓国)の作品はよくできていて上手い。

「アジア21カ国・地域、アーティスト43組」が参加しているというのだが、展覧会のフライヤーにはアーティストの「国」も「地域」も明示されていない。「台湾」とか「香港」とか書きたくないという政治的な配慮が働いていることは想像に難くないけれど、そもそも「アジア」という括りからして政治的な部分を抜きにしては語り始めることすらできない。自らの出自や政治的・文化的バックグラウンドを検証することが作品の出発点となっている作家が多いのが第三世界の現代アートの特徴であるはずなのに、そのあたりの議論をすっ飛ばして「アートだから、作品がすべて」という逃げ方をしていいものか、考えさせられたりもする。
そういう逆説的な意味を含めても、非常に意義のある展覧会であることは間違いない。

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写真は本物の動物の皮でバイクや台車などを象った、ちょっとグロテスクなサジャナ・ジョシの作品。展示作品の中ではこれが一番面白いと思ったのだが、この女性作家はネパールの出身、パキスタンの大学で学び、現在もラホールで活動を続けているという。こういう人を「サジャナ・ジョシ(ネパール)」とすんなりと表記するのは確かにちょっとためらわれる。

***

この展覧会は11月23日まで開催中。

第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009
http://www.ft2009.org/jpn/index.html
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by hrd-aki | 2009-09-30 13:20 | レポート

KIAF 2009

韓国最大のアートフェア「KIAF」を見てきた。
KIAFはソウル江南の三成(サムソン)にあるCOEXというコンベンションセンターで毎年開催されている。去年までは1階のホールを使っていたのが、今回は3階に移動していた。「不況で予算が少ないからじゃない?」というのは一緒に見に行ったソウルの友人の弁。それでも会場は大きいし、ひとつひとつのギャラリーブースのサイズも日本のアートフェアでは考えられないくらい広い。

KIAFはここ数年毎年見続けている。一昨年までは倍々ゲームに近い感覚で拡大を続けてアジア最大と言ってもいいような規模に成長してきたアートフェアだけれど、去年はリーマンショックの直後で完全な沈滞ムード。みんなが「最悪のタイミング」と言っていた。今年もその「最悪のタイミング」が続いているようで、知り合いの韓国人ギャラリストたちもどこかしら表情が暗い。
それでも一定の規模と国際性を担保しようとするフェアの姿勢は見習うべきものがある。今年の招待国はオーストラリアのようで、有名なNiagara Galleryをはじめ数件のギャラリーが出展していたし、ホールの一画ではインド現代美術の特別展も開催されていた。

***

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僕が行ったのは日曜日。開場から間もない11時過ぎで、まだ閑散としているホール内。

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インド現代美術の特別展。

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10月の「余韻/響き」展でもお世話になるHyunjoo Parkさんの作品展示。ソウルのVit Galleryのブースにて。

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これは女の子3人組(?)のハプニング的なパフォーマンスの一場面。

***

http://www.kiaf.org/
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by hrd-aki | 2009-09-27 00:19 | レポート

地方文化通信:犬島アートプロジェクト (3)

(2)からのつづき

ベネッセアートサイト直島とは、ベネッセと直島福武美術館財団が直島で運営するアート活動の総称だ。世界的な建築家である安藤忠雄が建築デザインを担当し、ジェームズ・タレルやウォルター・デ・マリアなどの永久設置作品を展示する「地中美術館」が、そのキーフレームとして機能している。「ベネッセハウス」はアートをふんだんに取り入れた美術館のような宿泊施設であり、また「家プロジェクト」は島内の様々な場所に著名なアーティストを招き、サイト・スペシフィックな作品制作を依頼するという活動だ。これらすべてが総合的に組み合わされて、直島は芸術文化のユニークな発信地へと成長してきた。

このほか、まだ詳細は公表されていないが瀬戸内海の別の島で新たな美術館建設の構想もある。また「瀬戸内国際芸術祭」(仮称)という、フェスティバルの開催も計画されている。これは2010年に第1回が開催される予定だという。

このようにベネッセと直島福武美術館財団の活動の全体像の中で見ていくと、犬島のプロジェクトも、単にひとつの過疎の島を観光開発し、金と人を呼び込もうというような一話完結的な話ではないことが理解できる。ひとつひとつのプロジェクトは、瀬戸内海地域全体に大きな文化的なうねりを生み出そうとするグランドデザインの一部なのだ。すでにエリア近隣に点在している大原美術館(岡山県倉敷市)やイサム・ノグチ庭園美術館(香川県高松市)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県丸亀市)などのアートスポットをもネットワークし、アートを軸とした「瀬戸内海文化圏」とも呼べるようなものを構築しようという、壮大な計画の姿も浮かび上がってくる。

さらに見逃すことができないのは、行政がイニシアチブを取って展開するプロジェクトと違い、経営の視点が常にそこにあるということだ。直島の事例にも見られるように、美術館の建物をひとつ建設するだけで完結するのではなく、建築そのものにも価値を持たせ、また町の中にも作品を点在させ、さらには宿泊施設などのインフラも整備することにより、訪れた人々が滞留し、循環できる仕掛けをつくる。犬島でも同様に、グッズなどを販売するストアや、食事もできるカフェが用意されている。ただ単にアート作品を見せるだけの場ではなく、また施設が完成したらそれで終わりでもない。新しいプロジェクトを次々と立ち上げ継続させていくことで、リピーターを増やす工夫も絶えず行われている。

私企業に支えられた組織だからこそ実現できた総合的かつ長期的なプロジェクトの数々は、バブル経済崩壊後の予算削減に苦しんだ公立美術館のあり方とは一線を画すものであり、しばしば「ハコもの行政」と揶揄される日本の文化政策に対するアンチテーゼとして捉えることもできるだろう。



犬島アートプロジェクトは、日本の中でも経済的に取り残されている感のある中国・四国地方、瀬戸内海地方という地域の特殊性、またベネッセという地域に根差した企業の存在、またビジョンを持った行動的な経営者である福武總一郎の存在を抜きにして語ることはできない。氏が、新潟県の里山を舞台に開催される国際アートフェスティバル「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」を積極的にサポートしていることも、東京などの中心からではなく、地方をネットワークすることによって新たな文化的価値を創造し、情報を発信していこうという強い意思の表れとして理解することができるのだ。

新たな展開を次々と繰り出し、成長し続ける瀬戸内海のアートムーブメント。犬島アートプロジェクトは2010年の夏に第2期の一部の公開を予定している。

(了)
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by hrd-aki | 2009-09-16 01:32 | 雑感

地方文化通信:犬島アートプロジェクト (2)

(1)からのつづき

犬島アートプロジェクトは、島の景観を日本の近代化の遺産として保全しながら、島全体を現代アートの美術館として再開発していくというプロジェクトである。2008年4月から公開が始まった第1期のプロジェクト「精錬所」は、アーティスト・柳幸典と建築家・三分一博志のコラボレーションによる、建築とインスタレーション作品が一体化したプロジェクトだ。

柳幸典は1959年福岡県の生まれ。1993年にヴェネツィア・ビエンナーレのアペルト部門を受賞し、生きたアリが、砂でつくられた万国旗の中を移動する仕掛けで物議を醸したインスタレーション作品「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」などで国際的にも知られている。国家や社会制度、経済システムなどを正面から取り上げ、それらがはらむ問題を鋭く追究してきた。一方、建築を担当する三分一博志は1968年生まれで、まだ若手と呼ぶべき世代の建築家だ。環境との共生を志向した作品で近年注目を集め、犬島のプロジェクトにも抜擢された。

「精錬所」における三分一の建築は、工場遺構を積極的に利用し、また周囲の環境と調和することを中心的なテーマとしている。もともとあった精錬所の巨大な煙突を建物の空調に活用し、また銅精錬プロセスの副産物であった「カラミ煉瓦」(*)や、島で産出する犬島みかげなど、犬島に由来する材料を象徴的に用いることで、歴史や環境を巧みに取り込んでいる。犬島の環境に合わせた植物による植栽や、植物の力を借りた水質浄化システムなど、先進的な環境システムの構築は、岡山大学の環境理工学部の全面的な協力により実現されたものだ。

(*…カラミとは、銅を精錬する際に副産物として発生する銅スラグ(鉱滓)の俗称であり、カラミ煉瓦はそれを固めてつくった建築材料である。犬島では銅の精錬のプロセスで大量に産生するカラミを使った煉瓦が工場などの建物材料として数多く使われていた。)

三分一の設計による「精錬所」の中に組み込まれる柳幸典の作品は、「ヒーロー乾電池」と名付けられている。犬島の歴史的遺産と、それが象徴する近代日本の様々な問題を、5つの部屋で提示した、サイト・スペシフィックなインスタレーション作品だ。日本の近代化の矛盾に対して警鐘を鳴らし、社会に衝撃を与えた小説家・三島由紀夫が生前暮らしていた東京都渋谷区の家の解体によって出た廃材を作品に組み込むなど、今後の日本や日本人のあり方について観る者ひとりひとりが思いを巡らすための場がつくり上げられている。



このように大規模で、かつ実験的・先進的でもあるプロジェクトが、東京や横浜、大阪といった、安定した集客が見込め、またアートに対する受容の土壌が整った場所ではなく、瀬戸内海の犬島という非常に限定的で特殊な場所で実現されているということの意味、またそれを運営する福武總一郎(直島福武美術館財団理事長、ベネッセコーポレーション会長兼CEO)の狙いは、どういったところにあるのだろうか。

ベネッセは1955年に福武書店として岡山市で創業された。現在ベネッセの会長を務め、直島福武美術館財団の理事長でもある福武總一郎の父・福武哲彦が創業者だ。教材制作などからスタートし、小学生向けの通信添削講座「進研ゼミ」によって全国的に知名度を高めていった。1995年にベネッセコーポレーションに社名を変更してからは、その社名の意味する通り(イタリア語で「bene」は「よい」、「esse」は「生きる」を意味する)、「よく生きる」という価値観を社会に浸透させることを目指し、教育、語学、福祉などの事業を幅広く推進している。今では日本を代表する企業体のひとつと言えるだろう。

一方で、現在も本社を岡山県岡山市に置いていることからもわかるように、ベネッセは創業の地である岡山に深く根差し、地域振興にも多くの力を注いできた。「福武教育文化振興財団」は岡山の教育・文化振興を支援することを目的とした財団であり、多くの助成活動を行っている。また、ベネッセが直島福武美術館財団とともに運営し、国際的にも高い評価を受けている「ベネッセアートサイト直島」の活動は、所在地こそ岡山県ではなく対岸の四国・香川県に属する島だが、瀬戸内海地域そのものの注目度を高めることに大きく貢献している。

(3)につづく
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by hrd-aki | 2009-09-16 01:27 | 雑感

地方文化通信:犬島アートプロジェクト (1)

韓国の仁川(インチョン)文化財団が発行している隔月刊の文化批評雑誌「플랫폼 PLATFORM」に、「犬島アートプロジェクト」についてのレポートを執筆する機会をいただいた。サブタイトルとして「Asia Culture Review」を標榜するこの雑誌は、美術から音楽、映画、演劇、文学まで幅広くカバーし、韓国語のみではあるものの日本や中国の展覧会やイベントも取り上げている。

掲載されたレポートは韓国語(僕が書いた日本語の原稿を翻訳者が訳してくれたもの)なので、原文の日本語のレポートをここにアップしておこうと思う。掲載の韓国語バージョンには「アートと経営のオーケストラ」というタイトルがついている。内容的にも韓国の読者を意識していることを前提として読んでいただきたい。

ちなみに朝鮮戦争の上陸作戦の舞台としても知られるインチョンは、現在ではソウルに次いで韓国第2の都市だ。国際空港を抱え、ソウルのサテライトシティとしての位置づけを越えて経済文化面でも発展を続けている(リーマンショックまでは、ではあるけれど)。あとは海鮮がおいしい。

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***

地方文化通信「犬島アートプロジェクト」

「犬島アートプロジェクト」は、アートを導入した地域振興・再開発プログラムの先進事例だ。建築とアート、環境と歴史など、いくつもの要素を組み合わせ、新たな文化発信を志向するこのプロジェクトは、「ベネッセアートサイト直島」などですでに国際的にも高い評価を得ているベネッセコーポレーションおよびその関連財団である直島福武美術館財団による、新たな活動として注目を集めている。直島とは共通点も異なる点もある、この「犬島アートプロジェクト」についてレポートする。



犬島は中国地方、岡山県岡山市に属する犬島諸島の一部をなす島であり、本州、四国、九州という3つの島に囲まれた瀬戸内海の東部に位置する。犬島諸島は本州から約2.5キロメートルという比較的近距離にあり、犬島のほかに4つの小さな島を合わせ、5つの島で構成されている(そのうちのひとつ、犬ノ島には、うずくまった犬の姿に似た巨石「犬石様」があり、犬島の名前の由来となっている)。諸島中最大の島である犬島も、面積は0.6平方キロメートルと小さく、現在の人口は約55人。島民の平均年齢は75歳で、過疎化・高齢化が極端に進行している土地でもある。

元来良質な花崗岩(「犬島みかげ」と呼ばれる)の産地であり、犬島から切り出された花崗岩は江戸城や大阪城などの石垣にも用いられた。その後、銅を精錬する施設がこの犬島に建設されたのが1909年のこと。原料の海上輸送の利便性や、銅の精錬時に発生する煙害対策のため、当時瀬戸内海上には多くの銅精錬所がつくられたが、犬島もそうした島々のひとつであった(ちなみに、直島も銅精錬所によって発展した島であり、1917年に創業した三菱の銅精錬プラントは現在もなお稼働している)。

大規模な銅の生産を背景に人口も急増し、住宅や飲食店、娯楽施設なども多く建設され、犬島は賑わいを見せた。しかし、銅の国際価格の暴落により生産量は急減、犬島の精錬所はたった10年間稼働しただけで1919年に閉鎖された。島からは人が去り、精錬所の工場建築群も放置され、長い年月の間にただ朽ち果て、徐々に崩壊しながら現在にいたっている。工場の遺構や巨大な煙突などが、富国強兵と重工業化を押し進めた時代のいわば標本として、独特の景観を形成している。

近年、10年ぐらい前からは観光を軸にした島おこしの動きが始まり、海水浴場、キャンプ場なども整備され、「廃墟ブーム」も手伝って観光客を引きつけてきた。2002年には「犬島アーツフェスティバル」の舞台となり、また若手アーティストのグループによるアートイベント「犬島時間」も2004年から毎年開催されるなど、アートと産業遺構を活用した再開発が進んでいる。



こうした動きを背景に、直島福武美術館財団が「犬島アートプロジェクト」のスタートとなる第1期の施設「精錬所」の建設を開始したのが2007年のこと。これよりも10年ほど前から犬島の歴史や風土に注目し、アートプロジェクトの構想を練っていたというから、長期的な視野で慎重に計画されてきた事業であることがうかがえる。

(2)につづく
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by hrd-aki | 2009-09-15 20:14 | 雑感